「えっ? そんなに遅くまで?」
「それは大変ですね」
 自遊人を訪ねてくれたお客さんは必ずそう言います。
 けっして夜遅くまで残って編集の仕事をしている、という話ではありません。
 遅くまで残っているのは“雪”。
 すっかり緑に覆われた風景からは、ここが日本有数の豪雪地帯であることは想像できませんが……冬は街でも3m近くの積雪があたりまえ、という地域なのです。
 私たちが新たに借りた耕作放棄地は山の中ですから、さらに積雪量は多く(しかも地形的に雪が多い地域)、今年は推定5m以上だったと思われます。なぜ“推定”なのかといえば、冬は田んぼに立ち入ることができないから。道路は通行止めですし、歩けば一時間以上かかります(しかも雪崩の危険が)。
 今年、道路の雪が解けて、車で田んぼに行けるようになったのはゴールデンウィークのこと。4月18日にスノーシューを履いて田んぼに上がったときは、まだ1m近くの雪が残っていました。
 そんな時期まで、田起こしも何もできないのですから、雪解けから田植えまでの期間は、まるで戦争です。しかも雪解けから一斉に芽吹く緑は、観光的には“素晴らしい景観”なのですが、耕作放棄地では“一刻を争う驚異”になります。
 なにが驚異か、って雑草です。もともと山の中に切り拓かれた田んぼです。周囲は当然ながら大自然なわけですが、裏をかえせば、ちょっと放っておくと田んぼも大自然に戻ろうとする、ということなのです。 読者の中には「たった3年、耕作していなかっただけじゃない」と思う方もいるかもしれませんが、3年も放置しておけば、田んぼは雑草畑になります。雑草よりさらにやっかいな葦も周囲から浸食してきます。