箱根本箱オープン初日。ついにこの日がやってきた。学生の頃から、レストランで働くか、本に関わる仕事がしたいと思っていた私の夢が、これから両方実現してゆく。待ち望んだ光景でした。20歳で専門学校を卒業してから7年ほど、東京にある日本料理店でずっとサービスの仕事をしてきましたが、心のなかでは本の仕事への想いが残り続けていました。そろそろ別の挑戦も考えたいなというタイミング。たまたま立ち寄った書店でふと手にした雑誌『自遊人』に、これしかないと思える記事がありました。海と山が近い箱根で、地元の食材を活かしたイタリアンのフルコース料理を出すレストランと、本のあるホテルがオープンする。「ここで働いてみたい、今のスキルも生かせるんじゃないか」。新しい挑戦をしてみたいと思っていた時期と箱根本箱のオープン。タイミングが重なった運命的な出会いでした。
これまでにないホテルです。想定と現実のギャップの中で理想を叶えるために試行錯誤する日々でした。オープン当初は、本が目当ての本が好きな方がほとんど。本を開きながら「片手で食べるから、コースじゃなくてプレートで出して」と言われることも。とまどいましたが、「本があって、レストランでもおいしいフルコースが食べられるホテルと思ってもらえるようにがんばろう」と箱根本箱のスタッフ全員一丸となり挑戦を続けました。シェフやキッチンスタッフがしっかりいい料理をつくって、サービスがその料理を心を込めて伝える。ひたすら忍耐強く地道にやってきた結果、「料理もおいしいよね」という声が少しずつ増えてきて、今は料理を目当てに来てくださるお客様も多くなってきました。
会社から支配人をやってみないか?と言われたのが入社して2年半経った頃です。自分ではまだ早いと思っていましたが、前任から「箱根本箱の今の雰囲気、今の状態を大切にしたいから、外から支配人を呼ぶのではなく貝原に」と言われて心を固め、背伸びしながらもやらせてもらうことに。30歳でこんな経験ができるとは思っていませんでした。おかげさまで、コロナ禍でも箱根本箱は黒字経営ができており、お客様からのご期待も高いと実感します。本が好き、食べるのが好き。そんなお客様が箱根本箱へ旅行に来たというよりも、自分の日々の1日として感じてもらえるような場所になれたらいいなと思います。日常の一部でありながらも、お客様にとってはその日はその日だけ。替えのきかない一瞬に対峙していることをいつも心に置いたまま一人ひとりに寄り添い、このチームで最高のホテルをつくって行きたいです。
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Profile
貝原 志穂Shiho Kaihara
2018年入社/東京都出身
1990年生まれ。エコール辻東京 辻フード総合マスターカレッジ(現:辻調理技術マネジメントカレッジ)1期生として入学。2011年、西麻布LA BOMBANCE入社。夢として思い描いていた本と料理の両方に関わる仕事を実現するために、2018年「箱根本箱」のオープニングメンバーとして自遊人に入社。プレゼンターを経て、2020年6月から「箱根本箱」支配人に抜擢され、チームを束ねる。