地域によって、農家によって、栽培環境も方法もさまざま。

美味しいお米ができる条件は
地域だけではない。
水が違う、土が違う、苗が違う……。


鈴木清さんの田んぼは大沢地域に点在していますが、そのどこもが土に特徴があります。さらに夏になると、周囲の田んぼにはまったく飛んでいないのに、鈴木さんの田んぼの周辺だけにホタルが舞います。田んぼにはタニシがゴロゴロ。ゲンゴロウなどの珍しい生き物を見ることもできます。

鈴木さんはとくに有機栽培や無農薬栽培をしているわけではありません。田植え後に1回、最小限の除草剤を使います。不思議な話ですが、それでも周囲にホタルが生息しています。鈴木さんになぜなのか聞くと、きまって帰ってくるのが「わかんないなぁ、ははは」という笑顔。そして「なにごとも欲張りすぎないのがいちばん」と言います。

こういうことです。「多くのお米を作ろうとするから除草剤の使用量が増える。そんなにたくさん作らなければ農薬もほとんど必要ないし、お米も美味しくなる」。鈴木さんの周辺の田んぼでは1反あたり9俵程度収穫するのは当たり前ですが(多い人は10俵以上穫ります)、鈴木さんは1反あたり6〜7俵。とくに鈴木さんの田んぼの中でもいちばん美味しいお米ができる田んぼでは5俵程度しか穫りません。

それを天日干しにするのです。美味しくないわけがありません。

鈴木さんは「もっと穫れてるだろう」と笑いますが、自遊人ではその田んぼでとれたお米の脱穀などを手伝っていますし、その全量が自遊人の倉庫に運び込まれるのですから、数量は確かです。

ジャンプの意味は……


神田さんは田んぼ着くと、さっそく田んぼに軽くジャンプしました。視察に来たのはまだ田植え前。しかも田起こし前ですから、田んぼの土は通常カチカチです。ところが……。

「あ、いい土ですね。けっこう土が柔らかい」

さすがです。ジャンプにそんな意味があったとは。さっそく私たちも真似してジャンプしてみます。しかもあちこちの田んぼで。するとたしかに鈴木さんの田んぼの土は明らかに軟らかな感触があります。

神田さんはその後、日当たり、土壌などをチェック。鈴木さんに多くの専門的な質問をしていました。さらに水源が見てみたいと、用水路の上流を目指します。用水路と言ってもすぐ先は渓流のようになり、山に入っていきます。そしてしばらくすると山の斜面からドバドバと湧水が溢れています。

「これ、飲めるよ」と鈴木さん。みんなで水を手ですくって飲むと、ほのかな甘みが。この甘みがお米の甘みを生み出すのです。

次に訪ねたのは同じ西山地域でも北に10キロほど離れた六日町の農家、今井守夫さん。今井さんは農林水産省から「農業技術の匠」に選ばれたこともある魚沼を代表する農家で、現在この地域で有機栽培とお米の食味向上に積極的に取り組んでいます。

今井さんの口癖は「美味しいお米を作るのはもちろん、これからの農業は環境にも配慮しなくてはいけない」。他の農家と違って、自分で育てたちょっと特殊な苗を植えていたり、その苗を植える時期をずらしたり(独自の理論に基づいています)、さらにアイガモを田んぼに入れて除草したり……。(実は自遊人の田んぼの師匠はこの今井さんです)

神田さんは今井さんにそれらの講義を受けた後、田んぼとその苗を見学。またまた多くの専門的な質問を今井さんにしていました。

そして最後に訪ねたのが西山の反対側、津南町で20年以上有機農業に取り組む、根津征二さん。根津さんは自分で苗を育てているのはもちろん、種籾を自家採取している珍しい農家(ちなみに通常、農家は苗を農協などから買います)。堆肥も自分で作っています。

神田さんは苗にも興味を持ったようです。苗の違いによってお米の味がどう変わっていくのか、詳しく聞いていました。
まずは鈴木清さんの田んぼを訪れた一行。土の様子、水の様子など細かいところにまで、興味深そうに、なおかつ厳しいチェックの目も光らせながら、話を聞く神田さん。
鈴木さんの田んぼには、タニシや沢ガニなどの小さな生物がたくさん。農薬や除草剤を多用するほかの田んぼには、これらの生き物は見られません。
続いて六日町地区の専業農家、今井さんのもとへ。米作りはもちろん、コシヒカリという品種の特徴にまで精通する今井さんの話は、勉強になります。
津南町の農家、根津さんは、有機栽培一本の農法に切り替えてすでに20年以上。土作りやたい肥作りなどに並々ならぬこだわりがあり、話は尽きません。
すでに育ち始めている、根津さんの田んぼの苗。田植えの季節がもうすぐやってきます。

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