ブラインドテストによる試食。そして選ばれたお米は……
その目は真剣そのもの。
1つ目と2つ目は
「うーん」とほぼ無言。
夕方からは試食。3人のお米以外にも、他県産の金賞受賞農家など5種類のコシヒカリを食べてもらいました。試食に使ったのは「かまどさん」。同条件で試食するために5つのかまどさんを並べます。そして火をつけて約15分、湯気が上がったら火を止めて、あとは10分ほど待って……。
「さぁ、はじめましょう」
試食はもちろんブラインドテストです。ひとつずつ蓋をあけて試食します。顔は本当に真剣です。
「うーん」
神田さんがスタッフと顔を合わせます。笑いません。そして2つ目。
「……」
今度は無言です。「次、行ってみようか」と神田さん。そして3つ目。
「うん、うん」
スタッフと顔を合わせて、かすかな笑みを浮かべています。自遊人一同、ここでほっと胸をなでおろします。そして次のお米へ。
「よし、よし。これ、これ」
なぜか神田さんが急に笑い始めました。スタッフもみんな頷きながら食べています。そして最後はまたふつうの表情に戻って
「うーん、悪くはないんだけれどなぁ」
神田さんが「これ、これ」と言ったのは鈴木清さんのお米でした。
「うちで今使っているお米に近い。甘みも香りも粘りも。かなり美味しいお米ですね。もちろん他のお米もハイレベルだと思いますよ。でもこのお米が飛び抜けている。でもね、この試食だけでは印象が偏ってしまうから、今度は店で食べ比べてみますよ」
米仙人?
そして一ヶ月後……。やっぱりダメだったかなぁ、と私たちも諦めかけていた頃、また電話が鳴りました。
「やっぱりあのお米は店で食べても美味しかったです。透明感があって、味に迷いが無い感じは、清さんならでは。正直、感動しました。新米の時期に鈴木清さんのお米をお客さんに出したいんですけれど確保できますか?」
「もちろんです!」。そのために田植え前に来ていただいたのですから。ありがとうございます! さっそく鈴木さんに伝えると鈴木さんも照れ笑い。「おお、そうか。嬉しいなぁ」とぼそり。
神田さんは鈴木清さんのお米をこう評します。
「ぶっちゃけ、凄いんですよ。“米仙人”というイメージ。なんかこう、吹っ切れている感じですよね。お米の味にも迷いがなくて、オリジナリティを感じるんです」
鈴木さんは無欲の人。有機JAS認証をとるつもりもなければ、様々なコンクールに出品するつもりもありません。気負わず、力まず。その無欲さが味のオリジナリティとなって現れるのでしょう。
生産量が少ないため価格は高価になってしまいます。でも有機JASでもなければ無農薬でもないお米は、当然ながらなかなか売れませんでした。自遊人ではこういった地味だけれど真面目に頑張っている農家の農産物に、少しでも付加価値がつくように頑張っていますが、こうやって認めてもらえることほど嬉しいことはありません。それは生産者である鈴木さんも同じだと思います。
神田さん、どうもありがとうございました。
※ 神田さんは2008年の新米収穫から1年間、鈴木清さんのお米をお店で使っていただきました。そして2009年春からは、ミシュランガイド東京で星を獲得した7人で、日本の食を考える勉強会を結成(名前がありません)。今井守夫さんの指導の下、今井さんの田んぼで魚沼産コシヒカリの田植え、収穫を行い、秋からはそのお米をお店で使っています。 |
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さあ、いよいよ試食会のはじまり。試食用の炊飯に使うのは、ご飯炊き専用の土鍋「かまどさん」。銘柄は隠し、全部で5種のお米をブラインドテストします。 |
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炊きたて、少し冷めてから、おにぎりにしてから……といろんなパターンを試食していただきました。冷めると印象ががらりと変わるから、お米は不思議。 |
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そうして選んでいただいた鈴木清さんのお米。今年も、天日干しの手間をかけ、さらに旨みを増したお米になりました。 |
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お米の美味しさの判断基準はもちろん人それぞれ。産地やブランド名、価格だけに惑わされず、作り手の工夫や苦労までを知っていただいて、美味しさを見極めていただけたら、と自遊人は考えています。 |
日本料理 かんだ |
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『かんだ』とは?
ご主人の神田裕行さんは徳島の生まれ。 パリの割烹や、徳島の『青柳』で修業を積む。東京・赤坂の『日本料理basara』の料理長を務めたのち、2004年には自身の店『かんだ』を元麻布にオープン。『ミシュランガイド東京』で3つ星を獲得している。
かんだ
東京都港区元麻布3-6-34 カーム元麻布1F
03-5786-0150 |
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