自遊「人」紹介
スーシェフから3年で料理長へ。実力があれば、チャンスは誰にもやってくる。
シェフ(フードディレクター)石川大
photo:Shuhei Tonami
text:Yu Ikedo
料理をつくるのが好き、食べるのが好き。普通はそういう人が料理人をめざすのかもしれません。私の場合はちょっと違い、単純に自分の腕で食っていける仕事ってなんだろうと考えた時に、手っ取り早いのが料理なんじゃないかと思ったのがきかっけでした。2度目の大学受験を控えた浪人時代に進路変更し、専門学校へ進学。気がつけば、この道でずっとやってきました。都内のレストランで働いた後、地元静岡でカフェの立ち上げを経験。それから自分でお店をやる経験を経てから、違う世界も見てみようと営業の仕事をしてみたりもしましたが、料理の道に戻って本物のイタリアンを勉強するために、門を叩いたのは、あるミラノのレストラン。単身イタリアに渡り住むことを決めました。しかし、イタリアに行って思い知ったのは、文化というか、根本的なものが全然違っているという現実でした。
正直自分の味覚では美味しいと感じないものが、向こうの人たちにはおいしくてたまらないことが多々ある。たとえば日本人なら味噌汁飲むとホッとするよね、といった明らかな潜在意識レベルでの違い。これを考えた時、イタリアで日本人がイタリア料理をつくるのは勝負の土俵が違うのではと感じました。逆に日本では本物のイタリア料理は再現できないなとも。料理人として迷いの中にいる、そんな時、知人からイタリアンを提供する箱根本箱の、オープニングスタッフ募集情報を聞き、応募してみることに。ローカル・ガストロノミーの考え方が、まさに自分の料理観と重なりました。日本には日本の良さがあり、地方やその産地の特色を活かし、そこでしか食べられない料理へと昇華させる。そんな想いを形にできるところに料理人としての幸せがあるのではないかと思い、転職を決めました。
箱根本箱のスーシェフとしておよそ3年。今度は「松本十帖の料理長を任せたい」と声をかけてもらいました。今はこれまで積み上げてきた知識と経験を活かし、オペレーションやメニューを考える日々です。箱根もそうでしたが、松本では特に生産者さんとの密なやり取りを通じて学びを得ることが多く、関わる全員が一体感をもって働く楽しさを噛み締めています。野菜はもちろん生ハムやワインなど、日本の食材、気候、文化でしか成立しない美味しいものに触れられるのは、料理人としての喜びです。そしてもうひとつ魅力としてヘッドシェフのクリスの存在もあげられます。アメリカ人独特の視点をもって、日本の良さを引き出してくれるのが新鮮ですね。良い環境で働けているからこそ、たくさん良いものを取り入れて、これまで以上に自分にしかできない料理を表現していきたいと思っています。
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Profile
石川大Dai Ishikawa
2018入社/静岡県富士宮市出身
1984生まれ。東京の調理師専門学校卒業後、都内と静岡のイタリアレストランで勤務。その後イタリアへ渡り現地のレストランで本場のイタリアンを学ぶ。その最中にイタリアンとローカル・ガストロノミーを掛け合わせた料理を提供する自遊人と出会い、惹かれ入社を決意。里山十帖で3ヶ月半の研修を経て、スーシェフ(副料理長)として「箱根本箱」へ。オープニングから2年半、「箱根本箱」の発展に寄与し、2021年1月より「松本十帖」のシェフに就任。