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放射性物質「不検出」

山根さんの顔はさっきまで、私がイクラごはんを頬ばっていたときとは違っています。うつむいて、すこし悲しそうな顔をしています。そしてしばらく無言の時間が流れました。その時間はおそらく5秒とか、7秒とか、そのくらいのはずですが、私にとっては何分にも感じるほどでした。

山根さんは顔をあげるとゆっくり話し始めました。

「うちの加工品は無添加をウリにしてきましたから、放射性物質に関してもきちんと考えないといけないと思っています。情報公開しないといけないこともわかっているのですが、こればっかりは私の一存では……。それで見ていただきたいのですが、この検査結果をどう思いますか?」

山根さんは私に6枚の検査結果を差し出しました。鮭のメスの魚体部分と卵巣の2枚、スルメイカが胴体と肝の2枚。そのほか、大型の回遊魚であるブリとゴマサバが各一枚。検査日は11月22〜23日。検体はすべて宮古沖で漁獲されたもので、その漁場が記されています。

放射性物質検査結果 ※検査機関は(財)日本分析センター、※クリックすると拡大表示されます。

当商品に使用している原料は、放射性物質検査の結果、報告書に記載の検出下限値においてヨウ素、セシウムの
いずれも「不検出」の結果が出ました。

  • サケ(卵巣)
  • サケ(筋肉)
  • ブリ
  • ゴマサバ
  • スルメイカ(筋肉)
  • スルメイカ(肝臓)

検査機関は(財)日本分析センター。第三者機関ですから間違いない数値です。それによれば、鮭とイカの身の部分は1ベクレル以下の検出限界まで不検出。鮭の卵巣(つまり筋子&イクラ)とイカの肝も不検出です。

(※ゲルマニウム半導体による検査では検体の量によって検出限界が変わってきます。1ベクレル以下を検出するにはおおよそ2kg必要ですが、肝を2kg集めるのは大変なので70gを検体にしたと推測できます。そのため検出限界が2.5〜3ベクレル程度になっていました)

「これならいいじゃないですか。あぁ、本当によかった。よかったです。鮭とイカからは出ていないのですね。南方からやってきたブリからはごく少量出ていますけれど、想像していたよりもはるかに低いですね。福島周辺で穫れた魚からははるかに多いセシウムが検出されていますから、きっと消費者は宮古の魚ももっと多いと思っているはずです」

ブリの検査結果もセシウム137と134をあわせても5ベクレル。検出限界を10ベクレルに設定すれば「不検出」と表示できるレベルです。私は山根さんに検出限界について説明して、「不検出」がどういう意味をもつか説明しました。

一般的には500ベクレル以下の海産物はなにも表示されずに販売されています。暫定基準値が500ベクレルですから、499ベクレルまでは「未検出」という扱いになります。 "食品に厳しい基準を課している"とされる企業でも、10ベクレルを検出限界にする会社もあれば、50ベクレルの会社もあります。 私たちの会社では、原発事故後に生産された商品をすべてシンチレーション検出器で検査しています。さらにシンチレーション検出器で"汚染されている可能性がある"と判断した自社商品については、国が公式検査としているゲルマニウム半導体による検査を行っています。そして原則的に1ベクレル前後の検出限界まで「不検出」のものしか販売していません。検出限界近くの数値が検出された場合は、その数値を公表して消費者の皆さまにご判断いただいています。

山根商店のような"テナント商品"についても、安全性を確認することを最重要視しています。このような現場での確認作業と、必要に応じてシンチレーション検出器で検査を行っています。

「私は、魚は多面的な状況判断でどの程度汚染されているか推測するしかないと考えているのですが、この検査結果を見ると、現時点では宮古周辺の海は比較的汚染が少ないと考えられますよね。ですから、この検査結果を公開して、この時期に収穫した鮭の加工品を販売するのであれば、消費者の理解は得られると思うんですよ」

「たしかにそうですよね。やっぱり消費者のことを考えると情報公開がいちばん大事ですものね。でもこの検査結果をどこまで公開してよいのかは、私の一存では決められません」

「本当の風評被害をなくすためには、すべてを公開することが原則だと私は思っています。ブリの数値は隠しておきたいかもしれません。でも太平洋を北上してくるブリが5ベクレルなら、南下してくる鮭はゼロベクレルだと自信をもって言えるじゃないですか。公開しなければ、消費者は鮭のゼロベクレルも"本当かなぁ"と思うでしょうし、ほかの魚は"国の暫定基準値ギリギリの499ベクレルの可能性もある"と判断します。ぜひ、漁協にこの結果を公開してもいいか、問い合わせてみてください」

三陸復興の味

山根さんは「わかりました」と力強く言ってくれました。

そして……。しばらくして山根さんから明るい声で報告がありました。

「データはすべて公表しても大丈夫という返事をもらいました」

「それはよかったです。あとは"伝える"のは私たちの仕事です。頑張って売りますから、山根さんも頑張って美味しい加工品をつくってください」

「おたがい、大変ですが頑張りましょう」

当社では原発事故以降、「疑わしきは食べない」ことを原則に、三陸と常磐沖でとれる海産物・海産加工品の販売を中止してきました。しかしさまざまな状況が判明してきたことから、当社では順次、三陸産海産物の販売を再開していきたいと考えています。販売再開する際には、知りうる情報を隠さずに皆さまにお伝えしていく所存です。

山根さんも言います。

「おたがい、大変ですが頑張りましょう」

太平洋側には、青森の八戸、岩手の宮古、宮城の石巻、福島の相馬、茨城の波崎、千葉の銚子と素晴らしい漁港が揃っています。そして私たちは情報公開に積極的な漁協や水産加工会社を応援していきたいと思っています。もちろん、ブリやサバなどから検出された微量の放射性セシウムをどう考えるのかは今後さらに検討を重ねていきたいと思っています。

味はとにかく抜群です。水産品の場合は個体差があるため断言はできませんが、放射性物質も限りなくゼロに近いと思われます。ぜひ年末年始のごちそうに山根商店のイクラや筋子を加えてみてください。

自遊人編集長 岩佐十良

左・山根智恵子さん 右・自遊人編集長 岩佐十良。2011年11月、宮古の山根商店にて。



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商品をご紹介します!
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