新自遊田のまわりには、カタクリなどの山野草も。作業効率は最低ですが、環境は最高の田んぼです。

いずれにしても農地を借りるのは難航して、農業生産法人計画は頓挫しかけていました。
 そんなときに、ある方が突然会社にやってきました。「体を壊して自分では耕作できない田んぼが山の上に5反(50アール)あるのだけど、どうでしょう。昭和40年代半ばまでそこに家もあって、私はそこで生まれたんです。思い入れのある土地だから、誰かが耕作してくれればと思って。親戚や知り合いも、さすがにあそこは非効率すぎると敬遠して3年ほど耕作していないのですが、いい場所ですよ」
 さっそく私たちはその田んぼを見に行きました。峠道をうねうね登り、軽トラックがやっと1台通れる砂利道に入ってしばらくすると・・・目の前に棚田が広がりました。人工物が何も見えない素晴らしい環境と景観、私たちは一目惚れしてしまったのです。
 とはいえ、農"業"を目指していた私たちは悩みました。どう考えても採算は成り立ちません。平場(山を下りた平らな場所)にも田んぼがあれば、それで赤字を補填するという選択肢もありますが、そもそも平場の田んぼはまったく借りられそうにありません。でも、この5反を借りなければ農業法人の設立は不可能になってしまいます。ということは・・・また今年も2反の田んぼで "もぐり"です。
 私たちの出した結論は「やってみよう」でした。切羽詰まっていた、ということもありますが、耕作放棄地を手掛けてみることは、それはそれで勉強になるのではないか、と思ったのです。一次産業としては大赤字確実ですが、私たちには「膳」という食品会社があります。コールセンターも、倉庫も、流通網も自前で持っています。さらに「自遊人」というメディアも持っています。
 しかも、素晴らしいロケーションです。企業の研修で使ってもらう、観光農園化する、そんな可能性を探ってみてもいいのではないか、と。