新自遊田に注ぐ水は、沢の清水を300m、引っ張ってきています。水は飲めるほどきれい。

農業の現場はどこへ行ってもヒーヒー状態なのに、書店では"儲かる農業"”をテーマにした雑誌や書籍が次々に発売されています。
「農業生産法人を作ったようだけど、やっぱり儲かるの?」
「収益の見込みはどうなの?」
 そんな質問を多く受けるのですが、儲かるわけがありません。なにしろ山のなかの耕作放棄地しかないのですから。とはいっても未来永劫、赤字では続けることができませんし、手掛ける意味もありません。そこで今回、私たちは大手企業の研修やイベントなどに田んぼを使ってもらおうと考えたのです。そして、いちばん最初に行ったのが田んぼ一反あたりの原価計算。次ページ左の表がそれなのですが、ご覧のとおり、除草剤を使用してもお米の価格は1kgあたり原価でも3000円超になってしまいます。
「えっ? 3000円? そんな馬鹿な」という声が聞こえてきそうですが、本当です。割が悪い理由はいくつかあって、ひとつ目は田んぼがぽつりと離れて存在していること。環境は素晴らしいのですが、裏を返せば効率が悪すぎます。なにしろ集落から片道15分、会社からだと30分はかかります。たった数枚の田んぼのために、水の管理に毎日通わなければならないのです。トラクターで代かきするのも、草取りも、そのためだけに行かないといけない。しかも昔の田んぼは形が不整形なので作業効率もすこぶる悪い。そのうえ、収穫できる米の量が極端に少ないのです。
 実は収穫量に関してはもう少しとれるものだと考えていました。一反あたりせめて4俵、うまくいけば5俵はとれるのではないかと思っていたのです(魚沼の平場では無農薬で6俵程度、減農薬なら7〜8俵が一般的。ちなみに新潟平野のような場所の一般的なコシヒカリは10〜12俵とれます)。ところが、全国にいる知り合いの有機農家や耕作放棄地経験者に写真を見せて話を聞いてみると、口裏あわせたように言うのです。
「あぁ、これは4俵なんて無理無理。3俵だな。えっ?無農薬でやりたいって?全滅でもいいってことかい?(笑)無農薬でやるなら3年は1俵も穫れない覚悟じゃないとできないよ」
 耕作していなかった期間は3年。たった3年と思うかもしれませんが、そのあいだ雑草天国だったということは土には大量の種が落ちています。
 有機栽培に取り組む農家からよく聞く話です。
「無農薬は3〜4年経った頃がいちばん大変。土がまだできあがっていないのに(土の力がないのに)、種は大量に落ちているから雑草天国になる」
 実際に自遊田では無農薬4年目に大変なことが起きました。除草機と手除草の実験田では雑草が芝生のように田んぼ全体を覆い尽くしたのです。雑草を取るのに要した作業量は、なんと1反あたりのべ500人工。1人1日2〜3時間だったとはいえ、炎天下の作業はハード。それだけに「1俵もとれない」という話がオーバーでないのはよくわかります。
「耕作放棄の田んぼは窒素過多になっていて、とにかく荒れる。最低限の除草剤は必須だし、収量も3俵がいいところだよ。もちろん除草剤をばんばん使えば、もう少しとれるだろうけれどね(笑)」
 さすがに1俵もとれないのでは困ります。でも私たちの田んぼは水源地にあり、沢の水がいちばん最初に注ぎます。幸いにして排水は地域の田んぼには流れ込まないようになっていますが、それでも魚野川には注ぎます。だから農薬はできる限り使いたくないのですが・・・。
 この原稿を書いている段階ではまだ迷っています。慣行栽培(一般的な栽培)の1/4程度の農薬使用量でやろうと思ってはいますが、まだ、無農薬も捨てきれません。