実は1反分は試験的に"布マルチ"という農法で無農薬栽培を試みます(これはもう決まっています)。
 この農法は山の中の棚田のような場所でも無農薬栽培ができるかもしれない数少ない農法です。俗に"お布団農法"と呼ばれていて、布団の綿のようなものの中に種籾を入れておいて、それを田んぼに布団を敷くように広げるのです。すると布団が遮光して雑草は生えず、布団に埋められた種籾だけが発芽するという仕組みです。このお布団はやがて水に溶けてなくなるので夏頃には雑草が生えてきますが、米が収穫できないほど雑草に覆われることもないと言われています。
 問題はそのコスト。1反あたり5万円もかかるのです。反あたり3俵しかとれないということは1俵あたり1万7000円。つまり白米1㎏あたり布マルチだけで315円。あまりに非現実的です。
 無農薬栽培の代表的な農法に、アイガモ農法や紙マルチというものもありますが、ともに山の中では向きません。アイガモはカラスやキツネのエサになってしまいますし、紙マルチは三角だったり丸みがあったりする田んぼでは敷くのが難しいのです。
 今回私たちが手掛けるような山のなかの田んぼは水源に近いので無農薬が好ましいのですが、そういう田んぼほど無農薬が難しいという現実。しかもコストがべらぼうにかかるという現実。そんなことを知ってもらえれば幸いです。
 ちなみに人件費の日当2万円を見て、「そんなに給料取ったら農業はできないよ」という人もいるでしょうが、これはあくまで企業としての原価計算。このなかに社会保険料はもちろん、間接部門のコストや会社の維持費が含まれることを考えると、かなり限界的な数字です。しかもこの計算に含まれていない勤務時間は、どこかへ“出稼ぎ”に行かなければなりません。