快適な睡眠には敷布団や掛布団が重要であるのはもちろん、枕も重要。最近ではさまざまな枕が販売されていますが、果たしてどんな枕を選べばいいのか。
今回は全国の旅館や高級ホテルにベッドや布団を納入する金沢の老舗『石田屋』に、よく眠れる枕の選び方を聞いてみました。常務の田中佳美さんは睡眠のプロ、睡眠改善インストラクターでもあります。
(聞き手 自遊人編集長 岩佐十良)
敷布団や掛け布団と比べて、枕は安価なので気軽に購入できるわけですが、枕によって睡眠はどのくらい変わるものなのなんでしょう。枕による睡眠の質の差は“慣れ”によるものも大きいと思いますが。 |
そうですね。「枕が変わると眠れない」という人が多いように、自分が使っている枕と違うだけで眠れない人もいます。つまり、枕と睡眠の関係は慣れと好みによるところが大きいんです。どんなにいい枕でも、自分の好みと違えば眠れないという方が多いですからね。
とはいえ、枕はどんなものでもいいかといえば、そんなことはありません。枕にとっていちばん重要なのは“首を支えること”。そして“清潔であること”。たとえばこの「しっかり頭部をサポートする馬毛の枕」の形を見てください。ちょっと変わった形をしていますが、これは頭をしっかりサポートする形なんですよね。寝てみるとわかりますが、仰向けに寝ていても、横向きに寝ていても、頭がぐらつかないで、しっかりサポートされます。
さらに馬毛は、ヨーロッパでは最高級寝具として知られ、抜群の通気性を誇っています。人間は寝ているときに首筋周辺にかなり汗をかくので、その汗を素早く吸収してあげる必要があります。特に夏場は、首筋だけでも100 〜150ミリリットルもの汗をかくので、朝目覚めると枕が湿っている、なんてこともあるのではないでしょうか。その点、馬毛はどんな素材よりも汗を吸収して、朝になると素早く水分を放出しますし、耐久性にも優れているので、枕や敷き布団には最高の素材といえるわけです。
いっとき、低反発素材の枕が流行しましたが、低反発ウレタンというのは、首を支えているようで支えられていないため、首が宙に浮いたような状態になっていて、逆に首の筋肉が緊張してしまうんです。枕にはある程度の硬さと高さが必要。首がきちんと支持されているほうが、体全体の筋肉の力が抜けるんです。
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馬毛の枕は独特の弾力があって、頭をしっかりサポートしてくれますよね。 |
そうなんです。馬毛は柔らかすぎず硬すぎない弾力性も魅力。もとはストレートの馬の尻毛を、まずはきれいに洗浄して、そのあと縄のように編んでいって、その後に蒸してカールをつけていくんです。ムースブルガー社ではこれをすべて手作業で行っているのですが、本当、気が遠くなる作業なんですよ。
以前「機械化できないのですか?」と聞いたことがあるのですが、機械化するとこの絶妙なスプリング感がでないのだそうです。それだけでなく、月の満ち欠けによって作業の工程を決めているそうで、まさに伝統工芸品。15年ほど昔まではヨーロッパにもそういった馬毛屋さんがたくさんあったのですが、今ではほとんどなくなってしまいました。
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馬毛は希少性が高く、値段も高騰しつつあると聞きます。敷布団やマットレスですとものすごく高価ですが、枕なら購入しやすいですよね。 |
そうですね。これなら手軽に馬毛の良さを体験していただけます。
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枕の高さが気になる方もいらっしゃると思うのですが、その場合はどうしたいいのでしょう。 |
ファスナーを開けるとわかるのですが、ダイレクトに馬毛が入っています。その馬毛を抜いていただくことで、高さ調整が可能です。たまに「もっと高さのある枕のほうがいい」という方もいらっしゃいますが、上向きで寝る場合、あまり高すぎる枕は気道を圧迫するのでおすすめできません。この枕で低く感じた場合には、せめて枕の下に折り畳んだタオルを1枚くらい入れる程度にしておいたほうがいいと思います。るときの安定感から考えて、7センチをおすすめしています。
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実際に寝てみると、そば殻のような、しゃりしゃりした音がしますよね。 |
音も枕の好みには大変重要な要素です。馬毛は硬いのでゴワゴワ、シャリシャリした音が出るのですが、それが「いい」という方もいらっしゃれば、「嫌だ」という方もいらっしゃいます。そば殻の枕がお好きな方は気に入っていただける可能性が高いのですが、ウレタン枕を使っている方だと音が気になるかもしれません。
ただ、それは好みの問題なので、どちらが「いい」「悪い」という問題ではありません。慣れてしまえばどちらでもいいものなので、ぜひ一度、馬毛枕の快適さを体験してもらいたいと思います。
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枕には清潔感が重要と先ほど聞きましたが、メンテナンスはどうすればいいでしょうか。 |
枕というのはずっと頭が密着しています。敷布団やベッドマットは寝返りもうちますから汗も分散しますが、枕は常に首からの汗を受け続けるわけです。ですから吸湿性と放湿性の優れた素材ほど枕に適しています。さらに枕を覆っている側生地を簡単に洗えることが重要です。古いタイプの枕は側生地が洗えないことも多いですよね。そのためカバーをかけるのですが、汗はカバーから枕の内部に浸透していきます。頭皮の脂汚れはカバーで防いでも、汗は枕の側生地に染みこんでいるのです。長年手入れをせずに使っている枕は、ダニの巣窟となっている可能性大。
ですから、いい枕、長く使える枕の絶対条件が側生地を洗えること。この馬毛枕も中の馬毛を抜けば生地を洗うことができます。中性洗剤でふつうに洗っていただいてけっこうです。実は馬毛自体も洗うこともできる素材で、ヨーロッパでは、側生地に入ったまま洗濯ネットに入れて、洗濯機で洗濯されています。ただ、この方法だと天然の色素が側生地に着いてしまうので、気にされる方もいますね。馬毛には天然の抗菌効果が十分あるので、基本的にはカバーをこまめに洗濯して、ときどき側生地を洗えばOK。さらに、天気のよい日に風通しのよいところで陰干しすれば、馬毛が持つ天然のパワーを維持できます。
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